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7月28日神奈川新聞に藤田のコメントを掲載していただきました。

以下、神奈川新聞より引用。

育児放棄による子どもの虐待死が後を絶たない。厚木市内のアパートで衰弱死した男児(5)の白骨化遺体が発見されてから30日で2カ月を迎える。再発を防ぐ手だてはあるのか。生活困窮者を支援するNPO法人「ほっとプラス」(さいたま市)で代表理事を務める藤田孝典さん(32)は「行政機関は窓口で待っているのではなく、家庭へ出向き、虐待を未然に防ぐことが求められている」と訴える。

 さまざまな理由で生活に困窮している家庭や路上生活者を訪ね、10年以上になる。その経験を踏まえ、藤田さんは強調する。

 「困窮することが多いのは子育て中のひとり親世帯。そして虐待もまた、ほとんどがひとり親世帯で起きている。住民票を調べることでひとり親世帯を探し、職員が予防的に訪問し、支援していく。問題が起きてからではなく、未然に対応することが大事だ」

 厚木市内で男児が亡くなった事件では、父親は十分な食事を与えず、男児は栄養失調で死亡した。妻が家を出た後、父親は男児が死亡するまで2年ほど一緒に暮らしていた。公園で父子が一緒に遊ぶ姿を見掛けられてもいる。

 藤田さんは残念がる。

 「父親は頑張っていたと思う。男親が働きながら子育てをするのは大変で、誰かに助けてほしかったはず。だが、ある時点から頑張れなくなった。諦め、育児を完全放棄して逃げてしまったのではないか。その前に手を差し伸べれば、事件は防げたはず。接触できていれば、ぽろっと悩みをこぼしたに違いない」

 父親は借金を抱え、トラック運転手として働いていた。誰かに相談した形跡はいまのところない。

 「大切なのは子どもより、親本人への支援。地域の見守りという生ぬるいものではなく、権限を持つ行政機関が家庭に出向く支援が必要。多くの行政機関が相談や通報がないと動きださないという『待ちの姿勢』。困窮している父母が助けを求める声を上げられないまま、子どもが犠牲になるということが繰り返されている」

 行政による手厚い対応を可能にするには、児童相談所などの支援機関の職員を増やし、専門職も配置しなければならない。

 だがそれ以前に、藤田さんが重要と考えるのは、孤立感から声を上げることもせず、あるいは支援の手さえ拒む親たちに積極的な関与を試みることができるか、その姿勢だ。

 ■訪問を重ね 

 鍵は、信頼関係が築けるかにある。

 藤田さんのやり方はこうだ。

 呼び鈴を押し、少し開いたドアの隙間から、訪問意図を説明する。

 「困っていることはないですか」

 そう問い掛けるこちらに向けられるまなざしには大抵、不審の色がありありと浮かんでいる。

 「困っていませんから」と、まるで訪問セールスを追い返すようにドアを閉められることがほとんどだ。

 生活に困窮しながら子育てをしている世帯の多くは、行政窓口に相談していない。「きちんと子育てをできていないことを責められるのではないかと恐れている。支援を拒みがちになり、自分から相談に行きたがらないケースが多い」。NPOを名乗ってもすぐに警戒心を解くことはない。

 しかしここでめげてはいられない。NPOの事務所には、さまざまな人から連絡が入る。子ども関連で多いのは「近所に学校へ行っていない子どもがいる」「育児ができていない家庭がある」など。「ネットカフェで暮らしている母子がいる」という連絡が店員から寄せられたこともある。

 2回、3回と訪問を重ねると対応が変わってくるのは、経験で知っている。「前にも来た人」と覚えてもらえれば一歩前進。よく聞くのが「仕事を辞めてしまってお金がない」「何か食べるもの持っていませんか」という、いきなり切迫感に満ちた言葉だ。

 藤田さんは言う。

 「つらいと感じている人は、つらいということしか頭になくなる。会話さえできれば、自然と『実は大変なんだよ』という言葉が出てくる」

 子どもと話すことを親が許してくれれば、さらに一歩前進だ。風呂に何日も入っていない子どもや、1日1食しか食べていない子どももいた。

 訪問を重ねると、困窮の背景が見えてくる。「暴力を振るう夫から逃げている」「病気や障害があり働けない」「仕事がない」「家賃を滞納し、家を出なければならない」「相談できる人がいない」。支援の制度や機関につなげる。

 ほっとプラスがシェルターとして借り上げているアパートや一軒家を案内することもある。役所の生活保護の窓口へ一緒に出向き、申請に付き添うこともある。

 ■責任放棄を 

 藤田さんが、行政による支援の限界を感じ、支援団体を立ち上げたのは大学生のころだ。きっかけは自転車でホームレスの男性とぶつかってしまったことだった。

 男性に謝罪すると、男性はかつて銀行の支店長だったという。社会福祉について学んでいたため、「支援制度があるのになぜホームレスになるんですか」と素朴な質問をした。当時は「福祉の支援は広く行き届いている」と思い込んでいた。

 男性から「それは建前だ。窓口で追い返されて、制度は使えない」と教えられた。

 路上生活をしている人の支援をするうちに行政だけで救えない人が数多いことを知った。救っているのは、支援を必要としている人の2割ほどだと感じていた。残りの8割を誰かが支えなければならないと考えるようになった。

 行政の支援に限界を感じているのは、いまも変わらない。

 藤田さんが本当に必要と考えているのが、子は親が育てなければいけない、という社会規範を変えることだ。

 親が育児をできなければ、社会に委ねればいい。子を手放し、養護施設でも、赤ちゃんポストでも、その後を託す。

 「父母が養育できないことは恥ずかしいことではない。子どもの命が失われるより、子どもの養育を放棄してもらったほうがずっといい」

 幼い子どもの命が失われる事件が報じられるたび、そう感じてきた。もちろんそのためには社会的な議論に始まり、制度や支援体制の整備も必要になってくる。

 児童虐待の背景には貧困と社会的な孤立があると藤田さんは実感する。それは一足飛びに解決できるものではないのも分かっている。しかし、手をこまねいているうち、悲劇は重ねられていく。

 「最もよくないのは短絡的に『ひどい父親だ』と原因を個人的な要因にとどめること。子どもを守るため、子育てのあり方を含め社会として再発を防ぐ方策を考えなければ、同じような事件はまた起きてしまう」

 ◆厚木男児衰弱死事件 厚木市下荻野のアパートで5月30日、白骨化した男児(5)の遺体が見付かり、父親(36)が殺人罪などの疑いで起訴された事件。起訴状では、母親が家を出た後、父親は2004年10月ごろから、厚木市内のアパートで男児と2人で生活。06年11月下旬ごろから、男児をアパート内に閉じ込めてわずかな食料と水しか与えず、07年1月中旬ごろ、栄養失調により死亡させた、としている。父親は「仕事と育児の生活に疲れた」と、週に1、2度しか帰宅せず、育児放棄の発覚を恐れて男児を病院に連れて行かなかった。父親は自分の両親と疎遠で頼れず、託児所に預ける発想もなかったという。また、男児は04年7月に実施された厚木市の3歳半健診を未受診で、同10月には午前4時半ごろに路上をはだしで歩いているところを保護されたが、厚木児童相談所は緊急性や深刻性が低い事案として処理するなど、行政機関の危機意識の薄さや情報共有の不十分さが指摘された。

藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス代表理事)
ふじた・たかのり 1982年茨城県生まれ。社会福祉士。2002年から東京・新宿区などでホームレス支援ボランティアに大学生として参加。04年には、さいたま市内で野宿するホームレスを定期的に訪問する活動を行い、アパート探しや生活保護申請を支援する。11年には、さいたま市を拠点にNPO法人ほっとプラスを設立。5人の社会福祉士とともに困窮状態にある人を年間約300人支援している。

【神奈川新聞】
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